読後ノート『ストーリー・セラー』(有川浩, 2015)

 本書は、「小説新潮」2008年5月号別冊に収録された「Story Seller」をSide:Aとし、2010年8月に新潮社より刊行された単行本にて書き下ろされたSide:Bとの2本立てで構成されている。
本書の登場人物は、小説家である妻と彼女の作品の読者であり、よき理解者である夫である。物語は、彼らが職場で出会い、永遠の愛を誓い、そして「別れる」までをえがいたものである。

Side:Aでは、「読む側」の人間である夫の視点から、「書く側」にある妻を、Side:Bでは逆に、妻の視点から物語が描かれているため2本合わせて完結する話のように見えるが、そこで展開される物語自体は異なる内容となっており、それぞれで完結する内容として捉えることも可能である。

感想
・人付き合いを行う上で避けることのできない煩わしさが現実的で、有川らしいリアリティあふれる描写に引き込まれる。登場人物のエゴなど黒い部分がしっかりと描きだされているところが、人情の機微を味わうことのできる要因なのだと思う。有川の作品では同様にいつも感じていることだ。妻が自身の父親を罵るシーンは、妻が言語化せずに心の中にとどめているわだかまりを、これでもかというくらいに明瞭に描きだしている。

・個人的には、Side:AよりもSide:Bのほうが読後感がすっきりしていて好みだ。理由は直感的には、やはり有川自身が男性よりも女性の視点を描くのが上手いというか、よりリアルに描けるからなのではないかと思う。